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ずっと、きっと、もっと、会いに行くよ!

今宵、世界が変わるなら。

今年もやってきたよ王子のお誕生日!
突貫工事で書きました。ただしどうしても書きたくて、昨年のお誕生日話の続きです、、
も、申し訳ない、、アニバーサリー感ゼロ、、

*いぐ→←のく
*互いに何となく気が付いているものの、実は自覚がなかったイグさんの話
*過去のことなど若干捏造気味、ほんのちょっとエピイグ冒頭に触れてる


それでもいいよという寛大な心をお持ちの方のみ、どうぞ。
 
 
 
 
いつもならば、素直じゃないなと笑って済まされるはずだった。
しかしそれは、今おかれている状況ではとても出来そうにない。
遠くで聞きなれた扉の閉まる音を聞いてから、深い深い溜息をこぼす。
まるで海の底にでもいるかのように息が苦しく、体が重い。
この事態を招いたのは少なからず自分なのだが、100%そうとは認めたくない。しかし誰が悪いかと言えば…
そこまで考えて、自分が壁に向かって項垂れていることに気が付く。あわてて壁から離れたが、足がもつれて転びそうになる。
おまけに軽い眩暈まで感じてしまうものだから、いっそ笑い飛ばしてもらいたいものだ。そうであればどんなに気が楽になるだろう。

落ち着いて、状況を整理しよう。ノクトが風呂から出るまでに考える時間くらいはあるはずだ。
まず今日はノクトの誕生日だった。いつもの4人で集まり、俺が用意した料理でささやかなパーティーをした。
この家でノクトが誕生日を迎えたのは2度目だった。昨年は4人でここに泊まり、翌日も雑談やゲームに明け暮れていた記憶がある。
だから今年もそうなるのだと予想していたのだが、そうはならなかった。
プロンプトが帰ると言い出し、グラディオも送るついでに帰ってしまった。俺はどちらにしても部屋や食器の片付けが終わらない限り、帰るわけにはいかない。だから今ここにいる。そうだ、そのためにここにいる。

ここまでが客観的な事実。そしてここからが俺の主観である。

まず前提として、だ。この混乱を招いているであろう事実として。
俺は、庇護の対象に対する愛情と、恋愛におけるそれの境界線を見失っている節がある。これを認めた上で考えを進めなければならない。
そもそも今日誕生日を迎えた俺の主君は男であり、それ以前に側付である俺が余計な感情を持ち出すことなどあってはならない。今の関係は既に特殊であり特別なのだ。本来王族の人間と王族に仕える人間が友人のように、兄弟のように接している時点で身に余る。2,000年以上の歴史を持つ一国の次期国王という立場はそういうものである。
もちろんそれは誰より理解しており、例え後者の愛情を抱いてしまっていると判明したとしてもだからどうしたという話で、伝える理由はなく…いや違う、今考えるべきはそこではないな。

(…さて、)

あらゆる方向に考えを巡らせているうちに、わずかに冷静さを取り戻せた気がする。今一度息を吐くと、ようやくキッチンの前に立つ。4人分の皿やコップが並んだシンクに向かい、ひとつずつスポンジで洗い始めた。急いで片付けてしまわないとノクトが風呂から上がってきてしまう。
手を動かしながらでも思考は出来る。状況を整理した上で今俺が考えなければならないことはひとつだ。片付けを終え、ノクトが戻ってきた後にどうすべきか。

しかしようやく本題へ辿り着いたタイミングで、扉が開く音。まだコップを2つしか洗っていない理由をどう説明したらいいのだろう。何か食べる物も用意しなければならないのに。
部屋着姿のノクトが、肩からタオルを掛けて中から出て来た。風呂上がり特有の清潔感のある香りが鼻をかすめる。

「すまないノクト、まだ時間が掛かりそうだ」

慌てて口を開いた。キッチンへ歩み寄っていたノクトはその言葉に足を止めると、俺の方を凝視している。

「明日仕事?」
「…?いや、非番だが」
「ふうん」

こちらの様子をじっと見ているから、てっきり洗い物に随分時間かかってるな、などと指摘されるかと思っていた。予想していなかった質問に素直に答えるが、次の言葉が見つからず黙り込んでしまう。どんなものが食べたいのか聞くべきか?明日何か用事があるのか確認すべきか?
十数秒はそうしていただろうか。ふと視線を逸らされ、口火を切ったのはノクトだった。

「…俺は、命令なんてしねぇからな。したくねぇし」

ぼそりと告げられたのは、先程の話の続きだろう。ノクトが風呂に入る前、俺が片付けを終えた後にどうするべきかはノクトが決めてくれ、などと横暴なことを言ってしまった。困らせるとわかっていたのに、変に取り繕ってしまった。
彼は王子という立場にありながら、一度も命令という言葉を俺に使ったことがない。それなのに自分の中の迷いを言い訳に、選択を押し付けてしまったのだ。

「先程は悪かった、あんなことを言って」
「別に。俺は…その。どっちでもいいっつーか」

どちらでもというのは、この後俺が帰っても帰らなくてもということだろうか。それよりも、明らかに目を泳がせているのが気になってしまう。

「ノクト…?」

手に持っていた食器用のスポンジを置き、一歩近付く。顔を覗き込むように目線の高さを合わせると、蒼い瞳が大きく揺れたかと思うとすぐに顔を背けられてしまった。
目が合ったことに驚いただけ、とはとても考えにくい。何かまた変なことを言ってしまっただろうかと考えながらも、このままでは話が進まない。まだ自分の中では納得のいく結論が出ていなかったが、心は決めた。

「…ではひとつ、お願いをしてもいいか?」

僅かに屈んでいた姿勢を正し、続ける。

「もう少し、お前と話がしたい。だから今夜は泊まっても構わないだろうか」
「!」

変な意地や見栄はもはや無意味だ。俺が今、まだノクトと過ごしていたいと感じているのならばそうすればいい。ただそれだけのことだと思った。
俺がノクトに対して抱いている感情の正体、それは一旦置いておくとしても、だ。

「……、いいけど」

少しの間が空いて、この距離でなければ聞き取れなかったであろうほど小さな声で、ノクトが呟く。断られることはまずないだろうと思ってはいたが、どこかほっとする。

「あと、食い物はもういい。てか俺もやる、拭くくらいなら出来るし」
「…は…?」

ほっとしたのも束の間、今度はひどく混乱することとなった。ノクトが家事を手伝う…?聞き間違いだろうか。しかし、言うが早いか首からタオルを掛けたまま、腕まくりをして隣に並ぶ姿を目の当たりにしている以上、聞き間違いというわけでもないようで。

「…失礼過ぎだろお前。すごい顔してんな」

呆然としているとじとりと睨まれてしまうが、そうは言っても致し方ないだろう。普段の身の回りの一切は俺がこなしているのだから。食器を洗うスポンジにすら触れたことがないのではないか?このお方は。俺がそうさせていると言えばそれまでだが。
しかしそんな俺を横目に、ノクトはすでに洗い終えたコップと近くにあった食器拭き用のクロスを手に取り、慎重に拭き始めた。

「俺もうねみーんだよ、さっさと片付けるぞ」

そう独り言のように小さく放ったノクトの横顔はどことなく嬉しそうであり、言葉とは裏腹に心の中ではすっかり張り切っているのだとわかる。
2人で早く片付けて、まだ話がしたいという俺の要望を受け入れてやろうということだろうか。

(…あぁ、)
自分の抱えている感情。それは俺の立場において余計なものであると思っていた。ただ。
いつか否定し、断ち切らなければならない日が来ると、わかっている。でも。
二度とないこの瞬間を、今という大切な時を愛おしく思うこと。それは罪なのだろうか?本当にこれは余計な感情なのだろうか?
開き直りだと言われればそこまでだ。だとしても俺は。

隣に立ち不慣れな手つきでクロスを使ってコップを拭き始めたノクト。その濡れた髪をかき上げるようにして撫でた。昔から変わらないやや硬いが指通りのいい髪が、水分を含み手に絡みつく。

…だとしても俺は、今を手放したくない。

「!?っ、は……!?」

半分裏返ったような声を上げ、手元を見ていた顔をすぐに上げる。大きく目を見開いているのを見て思わず笑ってしまった。
今にも手にしたコップを落としそうな程動揺しているものだから、右手は頭に乗せたまま、左手でコップとクロスを受け取る。

こんなことをしたのは何年振りだろう。ノクトがもっと幼い頃はよく懐いてくれて、頭を撫でると照れくさそうに笑うのが好きだった。そしてその瞬間だけは、ノクトの笑顔が自分だけに向けられていると思うと他には代え難い優越感があった。
今の今までそんなこと、すっかり忘れていたというのに。人間の記憶は行動と密接な関係があると言うが、それは本当らしい。

「ノクト、背が伸びたな。最近は特に大人らしくなってきた」

何事かと目を白黒させるノクトに、しみじみとそんな言葉を掛けてしまう。左手のコップとクロスをシンクに置くために目線を逸らすと、横で小さく笑う声が聞こえた。

「……んだよそれ。親か」

見ると、何がそんなに面白かったのか、笑いのツボに入ってしまったらしく肩を震わせて笑っている。
記憶の中の幼いノクトと、目の前にいるノクトの姿が重なる。あの頃の方が可愛げがあったし、我儘もまだマシだったように思う。けれどどちらも俺にとっては大切で、昔があったから今のノクトが居るのであって、今も変わらずこうして共に居られることは俺にとって何よりの喜びだ。

ただ、親という響きに僅かに後ろめたさを覚えてしまったことには閉口してしまう。
初めてノクトと会った時、レギス様は友として兄として支えて欲しいと言った。手を差し伸べるとノクトは目を輝かせてこの手を取った。兄、親…それは保護者としての立場を意味する。更には友という言葉にさえ後ろめたさを感じてしまうということは、つまり。

(答えはもう出ていた、のか)

自分がノクトに抱いている感情。その答えはもう随分と前から自分の中にあって、その結果が今夜ここに残り話がしたいという答え…もっとそばに居たいという気持ちに繋がっていたようだ。
頭の中でバラバラになっていたピースが段々と組み上がっていくように、ひとつ、またひとつと思いが輪郭を帯びていく。

つまるところ、俺はノクトのことが、好きだ。
自分で気が付くよりもきっとずっとずっと前から。
庇護する対象だからではない。一人の人間として、恋愛感情を抱いている。今ならばそれがはっきりとわかる。まさか本人を目の前にして、こうも突然に自覚することになるとは思いもしなかった。

まだ頭に乗せたままの手。いっそのことこのまま抱き寄せてしまえたら。そんな衝動に駆られながらも、そっと手を下ろした。独りよがりの感情に身を任せた言動は慎むべきだ。何よりもせっかく灯ったこの笑顔を、曇らせるようなことはしたくない。

「ノクト、」
「お前もさ」

後は俺が片付けるからと言おうとして、ひとしきり笑い終えたノクトに遮られる。

「背、伸びたよな。…手もでかくなった」

俺を見上げながら少し照れたように言ったかと思うと、不意に手が伸びてきて、俺の頭に触れる。ぎこちなく何度か撫でた後、すぐに手を離した。
あまりに驚きすぎて、言葉を失ってしまう。息を止めてしまう。必死に意図を読み取ろうと目で追うが、俯かれてしまい表情は見えなくなった。
今まで、ノクトに頭を撫でられたことなど一度もなかったはずだ。幼い頃を含めても思い当たらない。つまりこれが初めてであり、では何故今なのか。

「ノ、クト、何を」
「…お、お前の真似…しただけ」

息苦しくなって来たところで深呼吸し問い掛けてみたのだが、その返答に更に面食らう。ちらちらと上目遣いでこちらの様子を伺いながら、気まずそうに零す。
…これは本当にノクトなのか?“好き”だと自覚したおかげで俺の中に妙なものが芽生えているだけか?いや、確かに前々から可愛らしいことを言うこともあったけれど。ノクトは幼い頃から今までずっと可愛らしいが。…いや、だからそう言うことではなくて。
何れにしても、こんなことをされては困ってしまうな。愛おしくて愛おしくて堪らない。
ふう、と再び小さく深呼吸をした。少しでも平静を保てるように、今だから伝えられることをしっかりと伝えるために。

「…ノクト、改めて誕生日おめでとう。大切な日を共に過ごせたこと、本当に嬉しく思う。来年もその先も祝わせて欲しい」

言葉が次々と頭に浮かんでは、喉を、口を通って声となっていく。
ありきたりな言葉になってしまったが、祝福と感謝をいくら伝えても足りなくて。

「あ…たりまえだろ。お前が用意しなくて、誰が料理用意すんだよ」
「あぁ、そうだな」

やや言葉に詰まった姿すら愛おしく思えて、考えるよりも先に手が動いてしまった。もう一度頭を撫でる。先程触れたばかりの黒髪は、乾かさずにいるためにすっかり冷えてしまった。寒い時期ではないとはいえ、風邪を引いてもらっては困るな。
けれど、あと少しだけ、俺に時間を。
触れた瞬間ぴくりとしただけで大人しく撫でられているノクトの額に、そっと唇を落とす。このくらいであれば家族間の愛情表現のそれと言い訳も出来るだろう、などと頭の隅では考えていた。もちろん殴られる覚悟も出来ていたが、その素振りはない。

「……さて、片付けは俺の役割だ。お前は早く髪を乾かしてこい」
「なっ、……おい!」

わざと何事もなかったかのように離れると、ノクトは慌てて額に手をあてながら大きな声を出した。

「今の!」
「…今の?」

今のは一体何だと問い質したかったのだろうが、うまく言葉が出てこないらしい。口をぱくぱくさせながら必死に食らいついてくる。その反応があまりに可愛らしく、ついいつもの調子でからかってしまう。
やがて恥ずかしさと怒りが混ざったような、焦りながら怒ったような器用な顔をして、くるりと背中を向けた。
どことなく顔が赤くなっているように見えたのは、怒りのせいか、はたまた俺の願望から来る幻か。

「………っ、今の、…は、真似しねぇからな……!」

んだよ、あのクソ眼鏡!とか何とか言いながら、足早に洗面所へと消えて行く背中を見送る。
どうやら殴られるのはこの後のことかもしれない。だとしても甘んじて受け入れよう。
出過ぎた行動は控えなければとあれほど心に誓っていたというのに、耐えることが出来なかった。言い訳のしようもないし、許されてはならない行為だ。俺とノクトの関係に俺自身が甘えているとも言える。
主君の命令は絶対。もう二度と触れるな、顔を見せるなと言われれば従うほかない。俺がノクトを好きであるという事実など、立場の前では何の意味も成さない。
…ただ、あの様子では今はそれどころでは無いようだが。

少々からかい過ぎたかと思う一方で、自身の心音が先程から明らかに速く大きく鳴っていることは素直に認めなければならない。
ふとノクトの髪に触れていた手を持ち上げてみると、目視でもわかるほど脈拍に合わせて指先が震えている。額にキスなどよくこの俺に出来たものだ。ノクトも驚いただろうが、自分でも相当に驚いている。
好意を抱く相手にもっと触れたいと思うのは自然なことで、俺の中にもその感情が芽生えていたからこその行動だったのだと思う。結果的にすんなりと触れられたことを考えると、この思いに気が付くことが出来た自分自身に感謝をすべきか、否か。

いずれにしろ、今夜は長い夜になりそうだ。
ややしばらくしてからようやく聞こえ始めたドライヤーの音に小さく笑う。片付けると言ったくせに何1つ洗い物が進んでいない自分も、言えた義理ではないのだけれど。

今宵、世界が変わるなら。

共に歩む世界を
共に描いていけたなら。
願いは祈りに、祈りは君へ。
 
 
 
***
お疲れ様でした。
実はわたくし、このような文を書き始めてから、現時点で15年近く経ってしまっておりまして。
ただどうしても「告白する話」はどうしてどうしても苦手で、一度たりとも書いたことがありません。
今回いっそ書いてしまおうか、とも考えたりしたのですが、やはり私には出来ませんでした。

立場の話をし始めると一生光が見えてこないのですけど、だとしても、それでも、
希望がないからと言って今をすべて否定したくない。そんなイグさんでした。
 
今回は続きを書いてしまったし、お誕生日!!!という内容ではなくなっちゃいましたが…
愛はいつもどおりたっぷりです。
王子のお誕生日を祝うのもこれが3度目。ありがたいことです。
次は何を書こうかな、なんてさっそく考えている私なのでした。
今までボツにしてきた話はいくつかあるので、今度こそそれにチャレンジしてみてもいいのかも。
 
ではではまた。ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。
もっと文が書きたい。



※追記※
また続きを書いてしまいました。よろしければどうぞ、、
oolinklinkoo.hatenadiary.org